Jesu

Napalm Death,Godfleshなどに在籍していたジャスティン・ブロードリックによる新たなプロジェクトJesu。現存するミュージシャンの中で革新と核心を追求し続ける彼の存在はもっとみなに知られるべきだ。その美しいサウンドスケープは雄弁にそれを物語り、音楽という常識を超越し始めている。

レビュー作品

> Opiate Sun > Infinity > Pale Sketches > Why Are We Not Perfect? > Split
> Lifeline > Conqueror > Silver > jesu > Heartache


■ Opiate Sun
2009


★★★☆
 1曲50分のヘヴィ・ドラマティック抒情詩『Infinity』に続くリリースは、4曲入り26分収録のEP(日本盤はボーナストラック入り5曲)。アーロンとの共同作業GREYMACHINEや彼の最古のプロジェクトであるFINALなどのリリースで本年は畳み掛けてきており、驚きを色々と提供してくれた彼だが、本作も実に心にくる作品である。

 内容はかつて彼等のターニングポイントとなったEP『Silver』に近いだろうか。ヘヴィロックにシューゲイザ−をブレンドする手口はさらに密な交錯を行うことで、どこか懐かしみを持った穏やかなポップ性と神々しい分厚い轟音のヴェールで包み、天界からポジティヴな光のシャワーを降らせている。#1から彼の持ち味を発揮しているのだが、ジャスティンのヴォーカルは情緒的で麗しい響きを持つようになり、メロディアスなクリアギターの光と共に非常に聴きやすく進化させている。それでいて、じんわりと染み渡る造り手の温かみがこれまで以上に感じられるのもよい。けれども、神々しく壮大なスケール感は相変わらず強固だ。#2、#3にしても幻想的な空間を轟音で揺るがしてはいるが、温柔なアンサンブルと透明感といった不釣合いなものを混ぜて織り上げることでメランコリックなムードを湛えている。やや暗めのトーンとヘヴィネスで哀しみを解放していくかのような#4だけ、それまでと違った印象。だが、浮遊感と儚げな余韻が独特の深みを演出している。

 これまでの作品で培ってきたヘヴィロック+シューゲイザーの音楽性を、さらにメロディアスに舵取りしたことで、ALCESTにもリンクするような儚さや哀愁を手に入れたようにも感じられる本作。間違いなく彼の作品の中で一番ポップと呼んでいいだろう。哀愁とセンチメンタリズム、それに神秘性を纏いながら、まったりと進行していく独自のヘヴィロック。あまりにも美しすぎて、感動的。

■ Infinity
2009


★★★★
  ジャスティン先生自ら「スーパー・ヘヴィでオーガニックだ」と語る最新音源は何と1曲50分のヘヴィ・ドラマティック抒情詩。前のenvyとのスプリットではブレイクビーツも取り入れたりしていて作品毎に、サウンドを進化/深化させるJesuはまたここでも大胆に変化している。分厚いディストーションギターに光彩と潤いを与えるメロディ/旋律が瞬き、救いを差しのべるおぼろげな歌声が描き行く神々しいまでのヴェールはそのまま。だが表層は随分とヘヴィになっている印象を受けた。ゴリゴリとした金属ビートがGODFLESHを思わせたり、途中では戦慄が全身を駆け抜けるジャスティンの怒号の咆哮が入ったりし、グルーヴはさらに重苦しいものへ。スラッジめいたテイストが不穏な昂揚を掻き立てながら、他方ではJesuの代名詞である恍惚感と浮遊感を醸す。サウンドの一部で原点への帰結も感じさせ、それでいてJesuとしての持ち味を滑らかに融合させ、新たな道を切り開いているのはさすが。天国と地獄を接近させる明暗のコントラストがさらに美しさを増しているのも特徴として挙げられるだろう。これほどまでに豊穣なサウンドがドラマティックに絡み、オーガニックなスケール感を持って、光を見い出していく。そして、50分かけて濃密かつ濃厚な世界を汲み上げる、これはやはり凄い!これまでは恍惚感と多幸感に満ちた仕上がりであったのが、本作に至っては幸福と絶望が同時に心の中へ広がっていくかのようだ。タイトルが示すとおり、有限を超越し"無限"へ。Jesuが唯一無二であることを軽く証明している作品かと思う。

 ちなみに、日本盤のボーナスディスクにはこの『Infinity』をあらすじのように凝縮して17分半に再構築した未発表曲を収録している。

■ Pale Sketches
2009


★★★☆
 こちらはジャスティン自らのレーベルから2007年に発売され、完売状態でまるっきり手に入る見込みの無かったものだったが、日本のみ再発されることになった未発表音源集。タイトルもずばり『ペイル・スケッチズ = 素描集』で、00年から07年にかけて製作された音源を一気に放出する目的でリリースされたそうな(もちろん、ジャスティン自身が次へ向かうためのリセットの意もある)。時期としてはGODFLESHの終わりから2ndの『Conqueror』辺り。一応、アウトテイクということらしいが、ピアノから叙情的かつヘヴィに展開していく泣きの#1から、ブレイクビーツを取り入れたダンサブルな色めきを放つ曲だったり、ドローンばりの音の洪水と光の旋律が融合した美しい曲であったり、ヘヴィなポップミュージックを目指していた頃(Silver,Conqueror辺り)のキャッチーさがあったりと、楽曲の表情は当然のことながら多彩。その当時の趣向が如実に感じられ、ベクトルは様々な方角へと向いている。それでいて寄せ集めにも関わらず作品としてきっちりしているところはこの人の手腕でしょう。十分、腰をすえて聴ける内容で、端的に表現すればJesuらしいのは『Infinity』よりこちらの方かなと思う。個人的には癒し度も高いように感じる。

 こちらも日本盤はボーナスディスク付属の2枚組で、#1、#4、#6の別バージョンを収録している。2009年にリミックスされたようで、こちらの方が楽曲の起伏やゆらめきや繊細に表しているように思えたり。

■ Why Are We Not Perfect?
2008


★★★☆
 「Lifeline」から約1年ぶりとなる5曲入りEP(実質収録曲は3曲で残り2曲はそのオルタナティブ・バージョン。さらに日本盤はボーナス入りで全6曲)。つい2ヶ月前には日本が誇る激情ハードコアバンドenvyとのSplit盤が発売されたばかりなんだけども、本作に収められている原型3曲は2007年に発売されたELUVIUMとのスプリットLPに収録されていたものだという(既に廃盤)。というわけで時間軸でいえば、この作品に収められている曲の方が古いことになる。

 去年は2ndフルアルバム「Conqueror」にEP「Lifeline」を発表。その2作品はまた各々で違う表情を見せてくれたが、この作品では洗練された美に対して、さらに繊細に美を積み重ねて丹念に構築されるヘヴィ・シューゲイザーサウンドが耳に優しく流れ込む。ダブやヒップホップの影響を感じさせるビートに、ジャスティン先生の淡い歌声が共鳴。様々な要素が交じり合って溶け合うこの優美なサウンドスケープに酔いしれることができるだろう。好奇心溢れる実験を重ねながらも美や幸福へとベクトルがどんどんと進んでいるのがよくわかる内容だ。以前に比べると刺激という観点においては、間違いなく劣る。必殺の轟音フィードバックも地獄の死者が鳴らすものではなく、穏やかな優しさを感じさせる。ただ、以前から備わってきた温かな包容力がリスナーの心を掴む武器にまでなってきたようにも感じる。一筋縄ではいかない、本作に収められたどの曲を聴いても柔らかなヘヴィネスには胸を焦がされる。郷愁をも思い起こさせるこのサウンドには本当に驚かされるばかりだ。作品毎に新たなスタイルを提示していくジャスティン先生の野望とは一体何なのか?これからもますます楽しみになってきた。

■ Split
2008


-
 互いにその存在と音楽を理解しあうenvyとJesuの強力なスプリット作品。ここではJesuについてのみ語ることにするのでenvyについてはこちらを参照していただきたい。

 Jesuは本作に2曲(#4「hard to reach」, #5「the stars that hang above you」)を提供しているのだが、これまでのデュオ編成と違って本作からジャスティン先生一人による再出発作品となっている。その辺りの事情を反映するように去年10月に発表した「Lifeline」とは様相が違い、ブレイクビーツを取り入れて、打ち込みサウンドが主役となった実験的ヘヴィロックへと変貌。だが、一聴してJesuだとファンにはすぐわかる特徴が出ており、闇夜を切り裂く光のような神々しいメロディと優しくて渋みすら感じさせるヴォーカル、巨大な壁を一瞬にして打ち立てるギターノイズは本作でも健在。巧みに空間と時間を操って、聴くものを恍惚へと導くそのサウンドスケープはもはや専売特許といってもいいレベルだろうし、多幸感溢れるヴェールに包まれていくのは何とも快感だ。彼はこの2曲について「2ndアルバム「Conqueror」のボーナストラックである"sundown"や"sunrise"みたいな曲になるだろう」と語っていたそうだが、聞く限りではさらに趣向とヴィジョンが広がっていて、新たなフレーバーが感じられる仕上がり。個人的には初期のエッセンスも欲しかったところだが、納得できる2曲でした。

■ Lifeline
2007


★★★☆
 2ndアルバム「Conqueror」より約8ヶ月の驚異的な短期スパンでのリリースとなった4曲入りEP。もちろん全曲が新曲で、日本盤はボーナストラック2曲入りで全世界に先駆けて発売されました(俺は輸入盤を買ったけども)

 天空からの神々しいメロディと地獄からの激重の轟音が現実世界で対峙し、溶け合って極上のサウンドを展開するのがJesuの音楽。しかし、その均衡が崩れここ最近の作風からは前者の割合が増えて、空から優しくいたわるメロディがゆっくりと舞い落ちるように私達の身体を包み込む感じへとシフトしてきている。ユートピアを思わせる世界観、思わずJesuがかける希望の架け橋に想いを馳せるような気持ちになってしまう。永遠に止むことの無い至福の音がやがて空をジャケット写真のように黄金色へ変える。

 ゆったりとしたリズムから徐々にJesuワールドへ導く#1,幸福感を伴った温かい風に身を委ねてしまう#2、SWANSのJARBOE(♀)がゲスト・ヴォーカリストとして参加し、サイケポップ感を出している#3、地上全ての者に感動を与えるような#4。どれも重要な曲だろうと思う。Jesuにしては珍しく4曲で22分とそれなりにコンパクトで聴きやすいのもポイントといえる。

 地球という天体の表情すら変えてしまいそうな神々しい音楽だ

■ Conqueror
2007


★★★★
 Jesuの2年ぶりとなる2ndアルバムはEP「SILVER」を昇華させた形となった。霞がかったこの大地に幾千の光彩が入り乱れる創造の美。眼下に広がる濃密な音の粒子が絶望と希望の橋渡しをして、俺達は行ったり来たり。しかしながら絶望という言葉をゆっくりと希望が浸食していくほど、この作品は光の要素が強いと思う。大地を揺れ動かすほどの振動を持っている作品ではないが、うっとりとする温かい陽光のようなサウンドが我々を希望の方角へ指し示す。幸福感を味わえる音に心が弾む、世界一ヘヴィなポップミュージック。

 静なる混沌の極地は確かに存在した。
 桃源郷が見える遊覧船、それに乗ってはみませんか?

■ Silver
2006


★★★★
 2006年発表の4曲入りEP(日本盤は6曲入り)。1stアルバムと比べると随分と殺人的なヘヴィネスさと狂気じみた激しさといった要素が削ぎ落とされて、光や多幸感といった要素を増やすことによって新たなサウンドスケープを我々に提示。神秘的な力を持って押し寄せる美しい音の流水、優しく包み込むエレクロニカ、次元を通り越して輝きを放つ楽曲の数々。

 優雅にメロディが浮遊する光が映し出すパノラマ#1、躍動感あるビートに乗って音が氾濫するJesuの新機軸の#2、薄闇の中を彷徨い歩くような#3、前3曲で受けた衝撃をそのまま昇華させていくような神々しいサウンドの#4。さらに日本盤には#1と#3のMIXバージョンがボーナストラックとして収録されていてこちらも別バージョンとはいえ注目して欲しい。

 幻想的で幸福感のある世界が我々を魅了する。
 浮遊する白銀の庭園への扉が今、Jesuの音楽によって開かれる。

■ Jesu
2005


★★★★☆
 元Napalm Death,Godfleshのジャスティン・K・ブロードリックの新ユニットがこのJesu。激重のヘヴィネスを持つドゥーミーリフが凄まじく圧倒的な音圧を造りだす。ひたすらゆっくりと奏でられる激重サウンドに神秘的といえる天空からの音色が、見事に融合して“世界一ヘヴィなポップミュージック”を形成している。雲泥万里ともいえるぐらい対極にあるはずのどす黒い轟音ヘヴィネスと光と神秘に満ちた浮遊感ある美しいサウンドが混ざり合って創造的な音を生み出しているのである。最初はこの音に圧倒されていたが、だんだん吸い込まれるように意識が麻痺していった。差し込む隙間からの光が天の階段への道標であり、神々しい音色と奇妙なヴォイスが不思議な世界を表現している。アンビエント恍惚サウンドといえそうな、Jesuの唯一無二の神音がここに降臨した。あのIsisのアーロン・ターナーがJesuと契約したことに「史上最高の名誉だ!」と発言したことも頷ける作品だ。

■ Heartache
2004


★★★★
 Godfleshが解散し、その中心人物ジャスティン・K・ブロードリックが新しくJesuとして活動することになった。その第1作がこの2曲入りのEP。だが、侮ること無かれ!この2曲が共に約20分に及ぶ大曲であり、挨拶代わりの作品と言うのには失礼なほどの完成度と鮮烈さを残している。さすがに前身のGodfleshで数多の賞賛を受けていたほどのお方だと改めて実感。

 冷たさをも覚えるマシーンビートと殺人的なヘヴィネス、そこに幾重にも重なるギターの音色。それれが呪術的な雰囲気を醸しながらも徐々に楽曲の輪郭を形成。10分を越えた辺りで一気に陽光が差し込み、温かくも繊細なメロディーが一面に輝きを与えていく#1「Heartache」。哀愁ともの悲しさに満ちた序盤、業火が全てを焼き尽くしていくような中盤、全てを昇華していく終盤。20分が非常にドラマ性に富んでいる#2「Ruined」。共に20分の大曲でありながらもそのストーリーと美しいエンディングに酔わされる。この世界観は既にこの時から(いや、Godfleshの時代からだと思うが)確立されており、現在の「Conqueror」のような方向性を考えるとこの作品はジャスティン自身に貴重な財産となっていると思う。常に地獄と天国、そして絶望と希望の隣り合わせの情景が浮かび、光が闇を徐々に浸食していくような作品だ。